森愛の響き Vol.05 2017年 春号
発行日 | 2017年4月15日 |
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巻頭言
ひとりごと
「ふだんどんなに かっこいいこと 言っていてもなあ 人間てやつは いざとなると弱くて だらしのねえもんだな ひとごとじゃねえ おれの話だ」
みつを
この文は、あいだみつをさん(1924~1991)の「にんげんだもの」の中の一つである。
冒頭がこのような文章を載せたのには訳がある。この内容はまさに自分自身のことのように思えて仕方なかったからだ。
自分は、いつもいつも格好良いことばかり言ってる。しかし、自分で自分を見直してみるととんでもない。一生後悔ばかりの連続だったではないか!
そんな自分が本当は偉そうなことなど何一つ言える資格すらないのではないか?と思うからだ。
もう一つ気に入った言葉がある(と言ってもどれもこれも素晴らしいが。)それは次だ。
「だれにだってあるんだよ ひとにはいえないくるしみが だれにだってあるんだよ ひとひはいえないかなしみが ただ だまっているだけなんだよ いえば ぐちになるから。」
みつを
もちろん苦しみの少ない人も居るだろう。しかし、本当に苦悩して真面目に生きてきた人間の深い悲しみ、深い苦しみは、きっとこんなことなんだろうと思う。 誰にも言えないし言う訳はいかないという。今の私は、この意味は死ぬほど分かる。人生はただただ悲しみと苦しみが大事なんだということが。いつも、いつも思う。 人の居ない無人島の中で生着られたらなぁ...と。
さて、こんな文章を書いたあいだみつをさんという人の魂は、凄いものがあったはずだ。そうでないとこんな文はかけない。とある温泉旅館であいださんの面白い話をいくつも聞いた。今は年老いたそこの女将は、40年前には超美人の若女将だった。
ある日、その温泉旅館は修学旅行の学生や関係者で満員。貸し切りで泊まる部屋はなかった。そんな日にあいださんは一人ブラブラっとやって来た。「一泊出来ないか?」当時の若女将は丁寧に断った。あいださんは一旦帰っていった。ところが10分もしないうちに再び現れた。
「女中部屋でも良いから、一泊させてくれないか?」
『ないことはありませんが、こんな部屋では失礼です。』
「いや、そこで良い。ただし一つだけ頼みがある。あなたが私にお酌さえしてくれればそれで良い。」と。
あいださんの迫力に押されて女将はOKをした。あいださんはその超美人の若女将に一目惚れしたのだ。
そしてその晩、女将はあいださんにお酌をしたのだった。あいださんはニコニコと日本酒を飲んでいたらしい。その日を境にあいださんはその旅館にしょっちゅう来るようになった。そしてその時の写真は今でも飾られている。実に微笑ましい話だ。あいださんの純粋な人柄が浮かんでくるというものだ。
その女将ももう80歳を越えた。しかし今でも美人ではある。あいださんは超甘党だということも女将から聞いた。そこの名物の「最中」をいくつもペロリと平らげていたという。
あいださんが脳卒中(脳出血)で急死したのが1991年。彼の文がブームになりかけた頃に急死してしまった。若干67歳の若さだった。
「最中」にうつつを抜かし、食べ過ぎたからだろうか?そこは不明だが、惜しいことだ。
医師 鶴見 隆史